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東京高等裁判所 平成元年(ラ)789号 決定

抗告人 株式会社栄光商事

右代表者代表取締役 加藤光江

抗告人 草野五郎

右両名代理人弁護士 稲澤宏一

相手方 井上商事株式会社

右代表者代表取締役 井上猛

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二  そこで、抗告理由について判断する。

1  抗告人らは、本件賃貸借契約が敷地についてもされていることについて、契約の締結に当たつた抗告人会社の従業員が法律知識に疎く、門井に言われるがまま、誤つて敷地についても賃貸借契約を締結したことによるもので、何ら不自然なものではないと主張する。

しかし、記録によれば、抗告人会社は、不動産の管理、売買等を業とするものであつて、その従業員が建物の賃貸借契約を締結するに当たり、必要もないのに敷地についても賃貸借契約を締結したとは考え難く、契約を担当した従業員には、それ相応の法律知識が備わつていたものというべきである。また、仮に、敷地の賃貸借が抗告人会社の従業員の誤りであつたとしても、その他原審の認定する事実に照らして本件建物の賃貸借契約が正常な賃貸借と認め難いとの判断に何ら影響を及ぼすものではない。したがつて、敷地の賃貸借契約が誤つてされたとして、原決定を非難する抗告人らの主張は当たらない。

2  抗告人らは、敷金が高額な反面、賃料が低額であることについて、高額な金員の支払を求めた門井の要求を容れたことによるものであつて、格別異とするところはないと主張する。

しかし、門井の要求がどのようなものであつたにしろ、本件賃貸借契約において定められた賃料は、建物の規模、立地条件等に照らし、著しく低額で、合理性を欠くものといわなければならない。しかも、いかに門井が金銭の必要に迫られていたにしろ、同人がいずれは返還しなければならない敷金をそのように高額に定め、一方手元に入るべき賃料を右のように著しく低額に定めたというのはいかにも不自然である。してみれば、これを不自然とする原審の判断は相当であつて、抗告人らの主張は理由がない。

3  抗告人らは、本件賃貸借契約に際し、中途解約の場合の損害金を年三割と定めたのは、中途解約の申出を防ぎ、仮に解約されたとしても、これによる損害をできるだけ少なくしようとする意図に出たものであつて不自然な点はないと主張する。

しかし、このような約定は通常の使用を目的とする建物の賃貸借においては異例であり、前記1、2の事情をも併せ考慮すれば、右約定が正当な意図のもとに設けられたとする抗告人らの主張は採用することができない。

4  抗告人らは、抗告人草野五郎は昭和六三年一月二七日ころ抗告人会社との間で本件建物の転貸借契約を締結し、かかる占有権原に基づき本件建物を占有していると主張する。

しかし、原決定も説示するとおり、抗告人会社の賃借権を認め得ないとする以上、同賃借権を前提とする抗告人草野五郎の転借権もその効力を認め得ないこと当然である。

なお、右主張は、抗告人会社の賃借権が正当なものであることをいわんとする如くにもみえるが、記録によれば、原審裁判所の執行官が昭和六三年一二月一五日本件建物に現況調査のため訪れ、居合わせた抗告人草野五郎に本件建物の占有権原について尋ねたところ、同人は賃貸借契約関係は不明であるから抗告人会社に聞いて欲しい旨述べていることが認められる。かかる事実に照らせば、右転貸借契約の存在をもつて、直ちに抗告人会社の本件建物の賃貸借が正常なものとは認められない。

したがつて、この点に関する抗告人らの主張も理由がない。

5  以上を要するに、本件賃貸借契約が濫用に当たらないとして抗告人らが掲げる抗告理由はいずれも理由がなく、本件賃貸借契約は競売希望者の申立意欲を減退ないしは断念させることを目的とした濫用的なものであるといわざるをえない。

三  よつて、抗告人らの本件抗告をいずれも棄却する

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 川波利明 近藤壽邦)

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